■ 牛乳パックに印字された“正論”が苦しい理由
「赤ちゃんにはなるべくあなたの母乳を差し上げて下さい」
そんな一文が、島根県の木次乳業の牛乳パックに記載されていることをご存じでしょうか?
50年以上続く企業メッセージですが、近年この文言がSNS上で議論を呼んでいます。
- 「母乳が出ない人はどうすればいいの?」
- 「傷つく人の存在を想像してほしい」
- 「授乳ハラスメントでは?」
一方で、企業の理念や“母乳の大切さ”を支持する声も根強くあります。
でも――もし今、あなたがその言葉に「苦しい」「責められている気がする」と感じたなら、それは間違いではありません。
■ 「母乳でなければ」という言葉の重さ
◆ 母乳が出ない苦しさは、誰にも言いにくい
出産前は「当たり前に母乳が出るもの」だと思っていた。
でも実際には、痛み、吸いつかない、分泌不足、授乳リズムの乱れ――現実は予想以上に過酷だった。
そんな母親は決して少なくありません。
ある母親はこう語っています。
「周りの“頑張れば出るよ”という言葉が一番辛かった」
「粉ミルクを使ったときの罪悪感がすごかった」
◆ “正しいこと”が、プレッシャーになる
- 「赤ちゃんのために母乳がいい」
→ これは医学的にも事実です。
でもそれが、
- 「じゃあ出ない私はダメなの?」
- 「赤ちゃんに申し訳ない」
という思考につながってしまうとき、それは**情報ではなく“呪い”**になってしまうのです。
■ 専門家の声:「母乳がすべてではない」
● 厚生労働省の支援ガイド
- 母乳育児を推奨する一方で、「母親の心身の状態」「家庭の事情」を尊重し、ミルク育児や混合栄養も柔軟に取り入れる姿勢が明記されています。
- 完全母乳を目指すことが母親のストレスになる場合には、早めに方向転換することも推奨されています。
● 看護研究者・濱田真由美氏の論文
- 「母乳で育てるべき」という規範が、母親に“役割を果たさなければならない”という重圧を与えていることを指摘。
- 看護師・助産師といった支援者側にも、“母乳こそ最良”という無意識の前提があることへの注意が求められています。
■ では、母親はどうすればいいの?
「母乳でうまくいかない」そんなとき、ただ我慢するしかないのでしょうか?
実は、多くの支援や具体策が存在します。
後編では、実際に「苦しい時にどう乗り越えたのか」「どう支援があったのか」という声と共に、具体的な選択肢・対処法を紹介します。
■ 「もうやめたい…」と思った瞬間に
30代の母親の体験です。
「授乳が本当に苦痛だった。赤ちゃんは泣き止まない、私は乳首が切れて激痛…夜中に泣きながら“もう無理”って思った」
この声に、頷く人はきっと少なくないでしょう。
母乳で育てたいと思っていた。でも、思い通りにはいかなかった――
それは「母として未熟」なのではなく、身体にも心にも限界が来ていただけなんです。
■ 「完母」じゃなくていい。選んでいい。
◆ 完全ミルク育児に切り替えた体験談
- 「母乳にこだわるのをやめてから、気持ちが軽くなった」
- 「完ミにしてから赤ちゃんもよく寝て、私も眠れて、笑顔が戻った」
- 「罪悪感より“楽しい育児”のほうが大事だと思えるようになった」
母乳に固執していた自分を責めていたけれど、実は「完璧じゃなくていい」ことに気づけたとき、母親自身も、赤ちゃんも救われるのです。
■ 具体的な対処法・支援の選択肢
以下に、専門家や母親の声から整理した、母乳育児につまずいたときに選べる実践的な行動を紹介します。
✔ 1. 母乳外来を利用する
- 助産師や看護師に、母乳の出方・授乳姿勢・赤ちゃんの吸い方を直接相談できる
- 搾乳・マッサージ・ミルク併用のバランスなど、状況に応じたアドバイスが受けられる
✔ 2. D-MERなど心理的反応への理解
- 授乳中に不安・不快感が強く出る症状(D-MER)も存在し、治療・カウンセリングの対象になる
- 「私だけじゃない」と思えることが安心材料になる
✔ 3. ミルクを選んでもいいと知る
- ミルクは十分な栄養を持ち、安全性も高く、母親の体と心を守る手段にもなる
- 育児の手助けを得やすく、パートナーとの協力もしやすくなる
✔ 4. 自分の感情を否定しない
- 「つらい」「無理」と思う気持ちは、育児放棄ではなく、あなたのSOS
- 泣いても、弱音を吐いても、それは“母親としての失格”ではない
■ 「母親はこうあるべき」に縛られないで
牛乳パックの一言が、企業理念だったとしても――
それが「あなたの気持ちを否定してしまった」としたら、言葉が変わる必要があります。
社会が、企業が、医療者が。
「母乳は素晴らしい」が、「母乳じゃないとダメ」にならないように。
そして何より――あなた自身が、あなたを縛らないでください。
✔ まとめ:母乳でもミルクでも、あなたはちゃんと“お母さん”です
- 「赤ちゃんにはなるべく母乳を」は、良かれと思って発された言葉かもしれない。
- でも現実には、母乳育児が難しい人は少なくなく、言葉に傷つく人もいる。
- 専門家による支援、母乳外来、ミルクの活用など、選択肢はたくさんある。
- 何より、母親の体と心が健康であることが、赤ちゃんにとっても大切。
- 「母乳じゃなくていい」と言われて、ほっとする人がいることを忘れないでほしい。
「頑張らない」って、悪いことじゃない。
それは時に、“いちばん強い選択”かもしれません。